機会は二度来ない

社長寄稿 第3回 · 経営者の視点

Dao Van Kinh(ダオ・ヴァン・キン)
An Viet Industrial Co., Ltd. 社長・創業者

「20年以上会社を経営してきて、最も大切な教訓は何ですか」と問われたなら、

私は「技術」とは答えません。

最新設備とも、先進的な管理システムとも答えません。

私が最も深く学んだのは、約束を守ること、改善を続けること、そして小さな企業でも諦めなければ大きな成果を生み出せると信じることの価値です。

20年以上、心に残り続けている出来事があります。今でも思い出すたびに、創業当時の厳しい日々の感情がよみがえります。

緊急事態から生まれた機会

創業当時、An Vietは非常に小さな会社でした。

工場は簡素で、設備も限られ、正式な管理システムはほとんどありませんでした。

私は何度もFDI製造企業へ会社案内を持って訪問しましたが、多くは採用に至りませんでした。

工場、設備、管理システムを評価した結果、An Vietはまだ要求を満たしていないと判断されたのです。

正直に言えば、気持ちが折れそうになったこともありました。

それでも、規模の優位性がないなら、誠意、学ぶ姿勢、問題解決力で補わなければならないと信じ続けました。

ある日、思いもよらない形で機会が訪れました。

インド系FDI製造企業の生産ラインで使用する部品のプレス金型に不具合が発生しました。

その金型は台湾のサプライヤーが製作したもので、修理のため台湾へ返送すると、輸送だけで約10日かかる状況でした。

お客様が受注分を完成させるまで、残された時間は約1週間でした。期限内に解決できなければ、生産計画に大きな影響が出ます。

その緊急時に、購買部門が金型をAn Vietへ持ち込み、短く尋ねました。

An Vietで対応できますか。

私は金型を見て答えました。

できる限りのことをします。

お客様が帰った後で、その約束の重さを実感しました。

ほとんど眠れなかった3日間

最初の2日間は、実行可能な解決策をほとんど見いだせませんでした。

時間は過ぎ続け、プレッシャーは時間ごとに増していきました。

失敗すれば、An Vietに同じような機会は二度と来ないかもしれないと、はっきり分かっていました。

3日目の夜、私は一人で工場にいました。

疲れ切った私はお茶を淹れ、金型の前に静かに座って考え続けました。

当初は、金型を再び動かせる状態に戻すことだけを考えていました。

しかし見続けるうちに、改善できる可能性が見えてきました。

私は自分に問いかけました。

もしこの部品を最初から設計するなら、私はどうするだろうか。

その単純な問いが、考え方をすべて変えました。

修理する人として考えるのをやめ、金型設計者として考え始めました。

不具合箇所だけを直すのではなく、既存金型の中で設計を変更することにしました。

トライ結果は、私たちの予想を上回りました。

要求納期内に生産を復旧できただけでなく、改善案によってプレス工程を7工程から5工程へ削減し、成形状態もより安定しました。

取り組みを始めたとき、私自身もこの結果を想像していませんでした。

この経験から、もう一つの教訓を得ました。

難しい問題の解決に、いつも作業を増やす必要があるとは限りません。ときには、異なる視点で考える勇気が必要です。

なぜグループ会長はAn Vietを知ったのか

約1か月後、思いがけない連絡を受けました。

来月、グループ会長がAn Vietを訪問します。

正直に言えば、喜びより不安の方が大きく感じられました。

以前、同社の担当者はAn Vietを評価し、能力と管理システムがまだ要求を満たしていないと判断していました。

私は考えました。「担当者の評価でも不合格だったのに、グループ会長の期待に応えられるのだろうか。」

そして、もう一つ疑問が浮かびました。「大きなグループの会長が、An Vietのような小さな会社をなぜ知り、わざわざ訪問しようと思ったのだろうか。」

理由が分かったのは、後になってからです。

生産に影響する重大な問題が発生したとき、担当部門は経営層へ明確に報告しなければなりません。何が起きたのか。原因は何か。誰が責任を持つのか。対策は何か。いつ完了するのか。最終結果はどうか。どのように再発を防止するのか。

その金型不具合に関する報告の中で、An Vietは問題を引き受け、期限内に完了した会社として記載されていたのでしょう。

おそらく、その報告を通じてAn Vietの名前が初めてグループの最高経営層へ届いたのです。

そのとき、訪問は偶然ではなかったと理解しました。

始まりは、An Vietが責任を持って引き受け、測定できる成果で解決した一つの難しい問題でした。

これは、私にとって初期の、そして最も重要な経営の教訓の一つになりました。

問題そのものよりも危険なのは、問題が報告されず、責任者が不明確で、期限が定められず、再発防止の教訓が残らない組織です。

強い企業とは、問題が一度も起きない企業ではありません。問題を見える化できる透明な仕組み、最後まで解決する責任体制、同じ失敗を繰り返さないために学ぶ力を持つ企業です。

20年以上忘れなかった言葉

グループ会長が訪問した当時、An Vietはまだ小さな会社で、応接場所も非常に質素でした。

見栄えのするものは何もないと分かっていました。

私に示せるのは、誠意と仕事をやり遂げる決意だけでした。

私は通訳を通じて、こう伝えました。

私たちベトナム企業はまだ小さく、多くの不足があります。しかし、私たちの知識、改善への決意、学び続ける姿勢をもって、御社がAn Vietに任せる仕事を完遂するために最善を尽くします。

会長は笑顔で立ち上がり、私の手を強く握って、私が20年以上忘れなかった言葉をかけてくれました。

それでいい。An Viet、そのまま進みなさい。50年前、私たちもあなた方と同じだった。

その言葉は、私の心に残りました。

50年。

それは単なる数年の差でも、設備の数世代分の差でもありませんでした。

会長が語った産業発展の歩みの中で、私たちのようなベトナム企業は、はるか以前に出発した企業からまだ大きく遅れていると理解しました。

しかし、私が最も心に残したのは、その距離ではありません。

大切なのは、言葉の後半でした。

彼らもかつて、私たちと同じ場所から始めたのです。

最初から大きな工場があったわけではありません。

先進技術や完成した管理システムから始めたわけでもありません。

成熟した企業の成長の背後には、長年の学習、蓄積、規律、改善があります。

その日から、An Vietが小さいことに引け目を感じなくなりました。

私は考え方を変えました。

大切なのは、今日どれほど小さいかではありません。明日、今日より良くなれるかどうかです。

一つの機会・三つの教訓

それから20年以上が過ぎました。

振り返れば、あの金型の最大の価値は、一度の修理成功だけではありませんでした。

三つの教訓を与えてくれました。

第一に、 機会が訪れたとき、小さな会社であっても責任を引き受け、全力を尽くす勇気を持つこと。

第二に、 難しい問題に直面したとき、応急修理で終わらせず、真因を見つけ、より良い結果のために異なる視点で考えること。

第三に、 成熟を目指す企業は、すべての問題をデータにし、データを教訓にし、教訓をより良い作業標準へ変えること。

これは、An Vietの社員に常に覚えていてほしいことです。

私たちには、まだ最大の工場はありません。

最も先進的な設備も、まだありません。

しかし、約束を守り、学び続け、日々の仕事を昨日より良くすることは、いつでも選べます。

機会は一度しか来ないことがあります。しかし、その機会をつかみ、責任を持って行動すれば、一つの機会が新たな歩み全体を開くことがあります。